中央アジアに暮らす同胞の実情は、ソビエト連邦が崩壊するまでほとんど知られることはなかったという。著者は1991年にカザフスタンを訪問し、初めて韓民族同胞である高麗人に会い、その後も訪問を続けている。このあたりのことは、訳者解説に詳しい。
ある日届いた一編の文章がきっかけとなって、「私」は中央アジア行きを決意する。それは、韓国語が分からない同胞の少年の話で、「アンニョンハシムニカ」という言葉から広がる見知らぬ故郷への思いが綴られていた。「私」は、ロシアへ取材旅行をする途中で寄り道をして、文章を書いたリューダという人物に会ってみたいと思い立つ。
時として”ついで”が思わぬ事態を招くこともある。カザフスタンの空港に降り立った「私」は、急に漠然とした不安にとらわれ、自己の内面へと足を踏み入れていくことに。不慣れな中央アジアでの旅程と、湧き上がってくる自身への問いかけに戸惑いながら、リューダを探してキルギスタンの広く深い湖へと到着する。
どこか心許なさを感じてしまう人生に、心が薄っすら曇っているような毎日に、一つの道筋を示すような作品である。
クオン刊
定価=1320円(税込) |

- 2022-06-22 6面

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