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2021年10月27日 00:00
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◆多方面からひもとく韓国ドラマ◆『イカゲーム』(韓国)
韓国の格差社会イメージを世界中に定着させた

下川 正晴(元毎日新聞ソウル支局長)

 イ・ジョンジェ主演の韓国ドラマ『イカゲーム』が、ネットフリックスで史上最大のヒット作になった。各国で同時多発的に視聴率1位にのし上がり、世界中に通用する韓国ドラマのパワーを見せつけている。これは韓国にとって喜ぶべきことなのか。
僕が『イカゲーム』に注目したのは10月上旬、脚本監督がシム・ウンギョン主演の映画『怪しい彼女』(2014年)のファン・ドンヒョクであると知った時だ。この映画は15年11月、千葉県柏市の映画館で見て驚嘆した。老女が若き女性に再生するファンタジック作品だった。

「だるまさんが転んだ」は、賞金をかけた死のゲームの始まり@Netflix


その優れた点は「脚本力、映画研究の成果、他者の人生への共感力」である、とフェイスブックで激賞した。大ヒットした『怪しい彼女』はその後、中国やベトナム、日本でリメイクされ、脚本の世界性を発揮したのである。
韓国では『イカゲーム』のパクリ疑惑が提起されている。確かに、藤原竜也主演の日本映画『カイジ 人生逆転ゲーム』(09年)に冒頭の設定がそっくりだ。しかし、それは何ら問題ではない。これはファン・ドンヒョクの映画研究の成果であるからだ。本人によると、彼の不遇な時代に『カイジ』の原作漫画(福本伸行著)を読んで以来、構想を煮詰めてきたという。脚本力、舞台装置、人物像の彫り込み、ディテールの描写が、何よりも卓抜である。原作へのオマージュ(敬意)と言っても良いほどだ。
両作品を見比べてほしい。『カイジ 人生逆転ゲーム』のセリフ回しは、いかにもダサい。『イカゲーム』はオシャレで、かつシュールである。第1話「だるまさんが転んだ」の展開には仰天するしかない。『カイジ』の脚本は大森美香。彼女はNHK大河ドラマ『青天を衝け』(21年)で力量を発揮したが、『イカゲーム』の脚本力には圧倒されたに違いない。
ファン・ドンヒョクの映画では『トガニ 幼き瞳の告発』(11年)が有名だ。光州のろう学校で起きた女子生徒への性暴行事件を描いた。孔枝泳の小説が原作だ。これを苦労の末に脚本・演出し、世に送り出した。ファン・ドンヒョクは、韓国社会の酷薄さと温かさを同時に描ける稀代の才能なのである。
『イカゲーム』をめぐって、さまざまな論評が出ているが、十分でない。
ここでは主人公の住まいが、ソウルの道峰区双門洞であることに注意を喚起したい。そこは韓流ドラマ『応答せよ1988』(15年)の舞台であった。ソウル五輪当時の社会的明るさが背景にあるドラマだ。だが『イカゲーム』の舞台である約30年後の現代は、「ヘル朝鮮」「自殺率1位」の残酷社会なのである。ポン・ジュノ『パラサイト』(19年)は富裕層監督による戯画映画だったが、『イカゲーム』が発する社会毒はより強烈であり、瀕死の状態と言っても良い。
外信報道によると、米外交文書に韓国格差社会の代名詞として、「イカゲーム」が登場したという。当然であろう。『パラサイト』(寄生虫)に続く『イカゲーム』のヒットは、韓国格差社会の悪しきイメージを世界中に定着させるメディア現象になったのだ。
進行中の韓国大統領選挙レースをめぐる与野党のデスマッチは、『イカゲーム』にまさる醜悪さを見せつけている。一連の文化政治劇は、一流の脚本家・監督と三流の政治家が共演する、大いなる現代の悲喜劇と言うしかない。

・ネットフリックスで視聴可
・公式HP=https://www.netflix.com/jp/title/81040344

2021-10-27 6面
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