生物学と人類学によって定義された「人間」から少しずつ外れている人たち、シントマーと呼ばれる彼らは、言わばポスト人類的な存在である。ハリウッド映画の『X―メン』の登場人物を思い浮かべてもらってもいい。シントマー375人分の記録が保管されているのが、十三号キャビネットだ。
主人公の「私」は、某企業の付設研究所に勤める平凡なサラリーマン。それなりに真面目に勉強し、努力の結果就職した先は、席を守ることが主要な業務という、あまりにも暇な会社だった。そんなとき、ふと使われていない上階へ上がった「私」は古びたキャビネットを見つけた。
キャビネットのファイルを所有しているのは謎の人物、クォン博士。博士の意向でシントマーと接触するようになった「私」は、小指でイチョウの木が育つ男や、極めて長い睡眠をとる人、記憶を操作する人などと関わっていく。そして「私」自身にも信じ難い出来事が起き始める。
キャビネットの扉を開いたとき異次元へ入り込んだのか。著者の文章は軽快で、随所で笑わせてもくれる。だが読み終わったとき、少し背筋に悪寒が走った。不思議な感覚をぜひ味わってほしい。
論創社刊
定価=2750円(税込) |

- 2021-09-22 6面

| | | |