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最終更新日: 2021-09-24 17:48:38
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2021年07月21日 00:00
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ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(55)ドンスと過ごした最後の日々
「北送事業」から62年
たんぽぽ


職場を出て、またドンスの家に向かった。
職場からすぐ近くの建物なのに、すごく遠く感じた。ドンスの家のドアの前で足が止まった。元の色があせた木製のドアを見つめる。自分の頭の中で想像している中の様子が、昔のモノクロ映画のように目の前を流れた。そのまま動かないとおそらく、ドンスの死に際まで流れるかも知れない。目にしわをたくさん作ってギュッと閉じて、顔を横に振った。髪の毛に積もった雪を落とすような動作で、ドンスに関する嫌な想像を頭の中から放り出そうとした。
ドアを開けて入ったら家の様子がまたモノクロに、1枚の写真のように止まって見えた。キム君の声でぼやけていた目のピントを、キム君の目に合わせた。思わずキム君に片手を差し出し、キム君は私の右手をつかんで部屋まで連れていった。ベッドの脇で、ジョン先生はドンスの左太ももの傷に薬を塗っていた。手を動かしながら顔を上げて私を見るジョン先生の顔は酷かった。顔の筋肉細胞すべてが重力に任せて落ち、若い頃のハンサムな面影が残っていた顔が別人のように変わった。ジョン先生のその表情が何を意味するか分かっていた。私は感情を抑え「最善を…」と小さい声で言った。ジョン先生は、目をドンスの左太ももに戻して「分かった」と返事した。先生の声のトーンからドンスに、私と同じ空間=現世にいる時間がまだ残っていることを察した。
「一緒に行こう」と右手でキム君の左手を握った。ドンスの家を出ると、ドアに背中をつけて大きく深呼吸した。息子を預けた所の途中にある市場で、キム君にもち米500グラムと白米1キロと豆腐2丁を買って先に帰らせた。
息子の所に着くと、ギュッと小さな身体を抱き、預けている人に「あと1週間ぐらいお願いします」と頼んだ。その後、ドンスの家の地区担当電気配電所に行った。ふだん「電気切断班長」と私がからかっていた作業班長に会って、ドンスの家への通電を頼んだ。当時、夫が「電気配電所」の技師長をしていた工場の仲良しグループのひとりで、同じ大学の先輩だった。たまにお願いする私の「依頼」に、いつも「はい」しか言わない優しい人だった。彼も2年後に事故で死んでしまった。それから、ようやく姑と夫の弟と一緒に暮らしている家に帰った。
もっとも厳しい難関だった。退勤時間を過ぎて帰ってきた私をにらむ姑に「すみません」と謝りながら台所に行って夕食を作った。急いでドンスの所に行かないと、と思って普段より手抜きになった夕食をテーブルに調えた。着替えをしてない私と食膳を見る姑に「本当にすみません。今晩、大事な用事があって今すぐ行かないといけません。明日の早朝には戻ってご飯の支度などをしますので」と小さい声で言い、背筋を45度折って頭を下げた。姑は「私が許可しなくても行くでしょう」と、唇と喉の奥に力を入れた声で言った。「すみません」と謝り、猫の前のネズミより酷い低姿勢で姑の許可を待っていた。「好きにして。永遠に戻ってこなかったら、もっと嬉しいけど」と、いつものセリフを私に投げた。
姑は嫌なこと全てを、たとえば私が生まれる前から状況が悪かった水道水のことも、嵐で巻き上がる土埃も全部、私のせいにして「安らぎ」を得る利口でかわいそうな人だった。姑から「許可」をもらった私は、塩と綿で出来ている服を何着か持って、ドンスの家に小走りで行った。
建物の玄関で、電気工事が終わった顔見知りの作業者と会った。「足元に気を付けて」「はい。ありがとう」と礼を述べて暗い階段を登った。ドンスの家で、まずは電球の明かりが外に漏れないように窓と玄関ドアの隙間に細工した。
ジョン先生は必要な薬を工面するために、居なかった。キム君に「お腹すいてるでしょう?」と声をかけながら、ドンスの横に行った。怖さが私の足を重くした。  (つづく)

2021-07-21 4面
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