この30年で大きく発展した韓国の絵本。コロナ下で絵本の魅力が見直されている昨今、絵本を媒介とした韓日交流が静かなブームを呼んでいる。日本の絵本とはひと味違う韓国絵本の魅力について、韓日両国の絵本をそれぞれ翻訳出版し、交流に尽力している申明浩さんに話を聞いた。
 | 2020年にリンドグレーン記念児童文学賞を受賞したペク・ヒナさんは、架空世界を再現する写真絵本が特徴だ。『お月さんのシャーベット』では7階建てのミニチュアマンションを自宅のアトリエに作り上げた | 駐仙台大韓民国総領事館と仙台白百合女子大学図書館地域貢献研究センターの共同主催により、韓国絵本による韓日交流「ようこそ!韓国絵本の世界へ」のオンライン講座が先月から始まった。1回目を担当した翻訳家で武蔵野美術大学講師の申明浩さんは、130人もの参加者に驚いたという。これまでは出版関係など、職業的に絵本に関わっている人を対象にした講演会の講師は務めていたが、一般人向けは初の試みだった。こんなに韓国の絵本に対する関心が高いとは正直思わなかったと話す。
参加者は、韓国の絵本を読んだことがある人ばかりではない。機会があったら読みたいと考えている人や、これまで見たことがないから、反対に興味を持ったという人もいた。年齢層も10代~60代と幅広く、子育て世代に集中しているわけでもない。コロナ下で絵本の魅力が見直されていることも要因として考えられる。
韓国の絵本が世界で注目される大きなきっかけとなったのは、2005年にペク・ヒナさんの『ふわふわくもパン』がボローニャブックフェアで入賞し、10カ国で翻訳出版されたことだろう。その後、関心の高まりは増す一方だ。
韓国の絵本が短期間で成長した背景について申さんは「韓国国内では1980年代後半から海外の絵本の翻訳版が出版されるようになり、そこから急速に発展した。日本より約半世紀遅れて形成されてきた韓国の絵本だが、幼児教育への高い関心とそれに応える整った環境があり、また絵本を芸術の一環として受け止める土壌が発展の理由だと考えられる」と語る。
さらに、大きな特徴として「幼少期に絵本と出合うことができなかった親の世代が、新しい媒体として絵本の魅力にとりつかれ遅れた読者になっている」点を指摘する。そのため韓国の絵本は、大人の視点をより強く意識する傾向があるという。絵本業界では「0歳から80歳までの読み物」というキャッチフレーズを掲げ、多様な絵本を制作しており、それが「これまで目にしてきた絵本とは少し違う」印象を与えているのではないかという分析だ。
一方で、課題も見えている。画家が自分の作品として絵本を作る場合、表現方法は優れているものが多いが、読み物としての内容が薄くなりがちだというのだ。それを聞いて、絵本のストーリー作家を多数輩出している日本との共同制作により、世界に誇れる絵本が続々出版される未来が見えたような気がした。
セミナーで紹介された絵本をはじめ、最近韓国で出版された60冊余りと日本で翻訳出版された作品を、神保町ブックハウスカフェ1階ギャラリー(千代田区神田神保町2―5北沢ビル)で見ることができる。
■期間:14日(水)~20日(火)11:00~18:00(無休、入場無料) |