今、韓国の演劇と聞いて真っ先に浮かぶのがミュージカルという人は多いだろう。一方で、1900年代半ばにブロードウエイ・ミュージカルに関心を持ち、韓国演劇界の未来を想像し、その深化に寄与した一人の韓国人がいた。そこから今日までいかなる紆余曲折があったのか。
そもそも韓国で演劇はどのように発展してきたのか。前提として、演劇は机上の個人芸術ではなく、行動の芸術であると著者は解説する。「観客を前に、俳優が直接、言語を通じて伝える芸術ゆえに、訴える力を持つばかりでなく、扇動的な側面も持っている」とし、社会情勢と切り離しては捉えられない成り立ちも示唆している。
本書は、開化期、日本新派との関わり、民族自覚、暗黒と混沌の時期、戦争、再建の道、産業社会と演劇多様化という大きな流れで、韓国の近代以降の演劇史をまとめたものだ。ほぼ700ページに及ぶ大作である。演劇活動に関わっている人でなくとも、時代背景とともに一つの芸術が形作られるさまを理解することは、知的好奇心を十分に満足させてくれるはずだ。
風響社刊
定価=4000円(税別) |