最終更新日:
2021-02-22 14:34:02
全体セクション
ニュース
主張
自由統一
在日社会
フォト・動画
特集
この一冊
アーカイブ
過去記事
新聞PDFファイル
連載特集
教養
バンクーバー五輪
東日本大震災
連載
韓国語ニュース
ブログ
Untitled Document
政治
国際
経済
社会
文化
芸能・スポーツ
社説
オピニオン
北韓問題
自由主義保守派の声
お知らせ
イベント情報
お問合せ
フォト
動画
テーマ特集
小説
広告
4コマ
大韓民国への反逆
在日の従北との闘争史
ホーム
>
ニュース
>
文化
2021年01月27日 00:00
文字サイズ
ツイート
【映画】『受取人不明』(韓国)
キム・ギドク監督は「衆生」に何を残したか
©2001 PRIME ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
韓国のキム・ギドク監督が昨年12月、ラトビアで亡くなった。新型コロナウイルス感染症による衝撃的な死であった。享年50歳。晩年、撮影中の性暴力問題の疑惑が持ち上がり、韓国映画界から事実上、追放状態になっていた。
『受取人不明』(2001)は、初期作品の一つである。舞台は1970年代の忠清南道永同郡。監督の出生地(慶尚北道奉化郡)から、さして遠くない。失明、性、米軍基地、混血児、貧困、朝鮮戦争の記憶…。韓国の底流に潜むタブーが、ブラックな脚本と演出によって再構築された、希望のない映画だ。
洋公主だった母親は、米国に帰った黒人兵の夫に手紙を出すが、そのたびに「受取人不明」で返却される。混血の息子は母親の愛人を殺し、彼も自殺する。悲観した母は放火して死ぬ。米国から返事が届いた時には、二人とも死んでいたという無常観漂う映画だ。
私はキム・ギドクとは、少しの縁があった。別府で日韓次世代映画祭を運営していた13年、ゲストとして迎えたのだ。提携していた韓国映画評論家協会賞の最優秀作品に『嘆きのピエタ』(12年)が選定され、来日交渉のため彼に電話をし、メールでやり取りした。別府では一緒に温泉に入りながら、映画の印象とは程遠い「優しさ」を感じた。
キム・ギドク映画の熱心な愛好者ではなかったが、韓国の安宿のテレビで見た『コースト・ガード』(02年)は、その数少ない例外である。主演のチャン・ドンゴンが演じた兵士の狂気に、貧困の中で育ち過酷な 海兵隊生活を送ったキム・ギドクの人生を重ねて考えざるをえなかった。
『キネマ旬報』最新号で、映画史家の四方田犬彦氏は、私がフェイスブックで翻訳・紹介した「キム・ギドクの最後のメッセージ」を引用しながら、「どうしても嚥下できない絶望」という作品論を書いた。韓国の友人に当てたメールで、キム・ギドクは次のように書いていた。
「すべての雑音はすべて悲しい争いです。訴訟もどういう結論が出ても、それはその場所の水準です。記憶は憎しみになりやすく、私を含めて、すべてが悲しい衆生です」
衆生とは、仏教用語で「生きとし生けるもの」の意である。キム・ギドクの祖国・韓国に対する失望と、映画監督としての無力感が溢れた文章である。
彼と思わぬ形で「縁」を結んだ私としては、今後も彼の映画を見ながら、現代韓国と韓国人を考えるしかないだろうと思われる。
(下川正晴 元毎日新聞ソウル支局長)
『受取人不明』はDVDのほか、Amazon primeで視聴できる。
2021-01-27 6面