本作品の語り手「私」の職業は雑誌の編集長で、いつものように千鳥足で路地を歩いていると、突然現れた男から助けてほしいと頼まれる。「私」は、何の対策も考えもなく男を下宿に連れて帰った。翌朝、忽然と姿を消した男は精神病院から逃げ出したパク・チュンという人物だと分かる。彼は小説家で、なんと「私」の職場に原稿が持ち込まれていたのだ。しかし、その原稿の掲載を頑なに拒む担当編集者。一方、パク・チュンの主治医は常に自信満々で「私」の中に不信感のようなものが芽生える。彼らとやりとりしているうちに、次第に「私」は、小説家パク・チュンの作品に惹かれていく。
キーワードは「懐中電灯の光」だ。パクの小説の中で強く不気味に描写されるそれは、いったい何を意味するのか。
巻末の訳者解説で、李清俊の小説は英語、フランス語、ドイツ語、中国語、スペイン語などに翻訳されており、日本語の翻訳も10作を数えるのだと知る。いくつか映画の原作にもなっているようだ。インパクトのある導入、緊張感の途切れない展開に時間を忘れ読みふけり、読後しばらくは登場人物(パク・チュン)のことをあれこれと考えてしまうような、そんな作品だ。世界中に幅広いファンがいるのも納得がいく。
クオン刊
定価=2000円(税別) |

- 2021-01-20 6面

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