主人公の女の子にとって、海は得体のしれない存在だ。ときには大きな波が家の屋根に届くくらい打ち寄せたりするし、波に飲み込まれる夢を見たりする。だから「なんだか こわそう」な海なのである。そして、そんな海に毎日潜る母親のことを心配している。海女は海から顔を出すと「フゥ~イ フゥ~イ」と口笛のような音を立てる。女の子にはその音こそが「ママが いきている しるし」だ。
今日も母親が「あわびや わかめや たこでいっぱい」の網を担いで海から上がってきた。するとその後ろには、母親よりももっと大きくて地面を引きずりそうな網を抱えたおばあちゃんが登場する。
これまで一度も海を離れたことのないおばあちゃんは、海を嫌いになった娘が都会に出るのを見送り、そしてまた迎え入れた。ここで読み手は女の子の母親の半生を知ることとなる。
海女と海には「うつくしい やくそく」があると、おばあちゃんは孫に教える。短い言葉のなかに人生哲学があり、何十年もの歳月が流れている。まるで女性の一代記を読んだような、重厚な読後感である。
主婦の友社刊
定価=1400円(税別) |

- 2020-06-17 6面

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