金郊工場(二)
柳根瀅
高徹・訳/馬瑞枝・画
そうしたある日、黄海道の道庁所属の技士、鄭鳳寛氏が訪ねてきた。
「柳先生、道の補助金を貰う考えはありませんか?」
「そうですね。そのつもりはなくはないですが、手続きの方法をよく知らないもんで、ためらっているんですよ」
「いま、納得のいく作品はありますか?」
「ええ、何点かありますよ」
「それじゃあ、贈り物としていくつか持って私といっしょに道知事のところへ行きましょう。柳先生の挨拶代わりです。そうそう、行く前にひとこと言っておかないといけないことがあります。道知事という人は元来、性格がとても頑固なだけでなく、これがまた極端な親日家で、い つも日本語ばかり使っています。その点をよく心得ておかないと」
「はい、わかりました」
私は作品を何点か持って、彼について行った。
「これをいま君が作っているのか?」
「はい、そうです」
「そうか、この技術をどこで習ったのかね?」
「習ったのではなく、五〇〇年間滅んでいたものを私が復活させたのです」
「うーん、そうか。こんなに美しいものをねえ」と言いながら、高麗青磁を手に、上から下までためつすがめつした。知事は六〇歳の割には若干老けて見えた。それに額の皺といい、左右のたくさんの頬毛といい、分厚い唇といい、どこから見ても意地悪そうで、また移り気な性格が窺えた。その日は作品を渡しただけで帰ってきた。
その後も何度か彼に会いに出かけたが、そのたびに日本語で話さねばならないために嫌気が差したが、仕方なく我慢した。しかしその後、とうとう我慢も限界に達してしまった。
「道知事、今日は私と二人きりなのに何でわざわざ無理をして日本語で話すのですか? 私は朝鮮語で話しますから、知事もそうなさってください」
「そんなこと言っては、いけないぞ」
と、いぜん日本語を使うのだった。
「朝鮮人が朝鮮語を使うのに、いけないってことがありますか?」
「やかましい。そんなことを言う奴は非国民だ」
「そうですか。私は日本にとっては非国民です。でも、朝鮮人の根本を忘れて日本におもねる人は腑抜けですよ」
「何、この野郎!」
「また日本語を使うんですね。いくらあなたが日本人の嫡子になりたいと思って頑張っても、連れ子でしかなく、絶対に嫡子にはなれませんよ」
「この野郎! 誰かいないか。こいつを追い出せ!」
「いえ、おかまいなく自分の足で歩いていきますから……。あなたのような人を日本人が何と言っているかご存知ですか? 腑抜けって言ってますよ」 |