仏国寺がある千年の都・慶州、全盛期には100万人が暮らしていたとみられる。それは、ローマに次ぐ東アジアのメトロポリスだった―著者が自選した文化遺産を巡るエッセイは、国宝が30点、宝物が73点、史跡が72カ所ある古都慶州から始まる。
新羅の僧・慧超が書いた五天竺(インド)への旅行記『往五天竺国伝』は、東アジアのオデッセイであり、著者を「西洋コンプレックス」から解放してくれた作品であると紹介されている。
出会った瞬間、全身がしびれるように感じた百済観音。それはまるで愛する人との初めての邂逅で、戦慄を感じるようなものだったという。
そして、全羅道致富で民衆芸術として誕生したパンソリは、下からの戦略が文化面で収めた歴史的な成功事例だと分析する。
本書は文化遺産に寄せる著者の、きわめて個人的な感情に基づく思いが語られたエッセイである。不思議なことに、紹介されていく遺産が次々と息を吹き返す。
それは、たとえ悲しみと苦しみに満ちた世の中であっても「命あっての物種とする生命肯定の文化こそが、わが民族の文化だ」と言い切る著者のなせる技なのかもしれない。
クオン刊・定価=2000円(税別) |

- 2018-11-21 6面

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