人材獲得の背景にある就職難
「拡大する新興国市場を狙え」、これが多くの日本企業のスローガンとなっている。こうしたなかで、小売業における海外留学生の大量採用に示されるように、海外の人材獲得の動きが積極化している。中国やインドほどではないにしても、韓国の人材採用も徐々に増加している。
代表例が造船・重機大手のIHI社である。同社は08年から韓国で定期的に会社説明会を開催して新卒者を採用している。海外の人材を採用するメリットは多様な価値観の社員を増やすことにより社内の活性化を図ることにあるが、とくに韓国の人材を採用する理由として、(1)文化的に近いこと、(2)日本語を含めて外国語ができる人材が多いこと、(3)「優秀な」人材が採用できること、(4)韓国産業人力公団のサポートが受けられることなどが指摘されている。韓国の人材を採用する動きは、ITや半導体業界にも広がっている。
韓国で「優秀な」人材が採用できる背景に、同国の若年層の就職難がある。若年層の失業率は2010年6月現在、20~24歳が9・9%、25~29歳が6・4%である。国際的にみて決して高い水準ではないが、失業統計に表れてこない短時間労働者、就職に備えて通学(就職予備校や大学院)したり、公務員試験の勉強に専念している者、就職活動をしていない者を加えた「事実上の失業率」は20%を超えると考えられる。また、統計庁によれば、15~34歳におけるニート(教育を受けておらず、労働や職業訓練もしていない若者)の数は04年の33万人から09年には43万人(推計)へ増加し、若年層の失業ないし無業は大きな社会問題となっている。
注意したいのは、大学を卒業して間もない25~29歳の失業率(年平均)が2000年の6・0%から09年に7・1%へ上昇したことである。この要因には、(1)通貨危機後、企業が即戦力を求めて中途採用を増やしたこと、(2)大学進学率が急上昇したこと、(3)大卒者の大企業就職願望が強いことなどが指摘できる。大学の新設や入学定員の増加に加え、「良い」職につく目的で大学へ進学する傾向が強まった結果、大学進学率は90年の33・2%から09年に81・9%へ上昇した。国内での就職が難しさを増したため、近年海外での就職をめざす動きが強まった。
求められる政府の対応
政府も08年、5年間に計10万人を海外に送り出す「グローバル青年リーダー10万人養成」(5万人の海外就業、3万人の海外インターンシップ、2万人の海外ボランティア)を提唱し、この動きを後押ししている。海外での就職支援は若年失業問題への対応のほかに、将来を見据えたグローバル人材の育成という側面も併せもっている。海外でのビジネス経験を通じて得た知識と人脈が将来の韓国経済にプラスに作用すると期待されるからである。政府にはこうしたグローバル人材がいずれ還流できるように、活力のある経済環境を作ることが求められる。
ただし、海外に就職できる人数は限られるため、学歴に見合う※「ディーセント・ワーク」を早急に創出していく必要がある。経済のグローバル化を進めながら、国内で規制緩和や投資インセンティブを通じて新産業の育成と企業の成長を促し、それを実現できるのかどうか、李明博大統領の手腕が試されている。
※ディーセント・ワーク(Decent work):働きがいのある人間らしい仕事という意味。国際労働機関(ILO)は、仕事の創出、仕事における権利の保障、社会保護の拡充、社会対話の推進と紛争解決の4つを21世紀の目標として展開している。
(日本総合研究所 向山英彦) |